ゲーミングオーディオブランドのEPOSから、“全部入り”といえるようなハイスペックなゲーミングヘッドセット「H3PRO Hybrid」が登場しました。
本機の大きな特徴は、あらゆる接続方法に対応しているという点です。しかも、違う接続の音源をミックスして再生することも可能。USBドングルによる無線接続だけでなく、アナログ有線接続、USBによる有線接続、Bluetooth接続をサポートしています。
また、ゲーミングヘッドセットでは珍しく、ANC(いわゆるノイキャン)に対応している点もポイント。名門オーディオブランドのゼンハイザーから独立した過去もあり、サウンドについてもハイレベルに仕上がっています。
価格は37,800円(税込)と、ゲーミングヘッドセットにしては高価ですが、価格に見合った価値はしっかりと感じています。価格面で少し躊躇しましたが、買ってよかった。そんな本機の魅力を、早速レビューしていきましょう。
オーディオの流れを汲む「EPOS」ブランド
そもそも、EPOS(イーポス)というブランドをご存知でしょうか。ゲーミングヘッドセットというと、LogicoolやRazer、HyperXなどが有名ですが、実はEPOSも歴史のあるブランドです。
EPOSが設立されたのは2020年3月と比較的最近ですが、その前身はゼンハイザー(Sennheiser)のゲーミング部門。ゼンハイザーといえば、オーディオ好きでは知らない人がいないほど有名な、ドイツの老舗ブランドです。
それまではゼンハイザーブランドからゲーミングヘッドセットが発売され、GSP600をはじめとした名機がラインナップされていました。つまりEPOSという名前に変わったのは最近ですが、ゲーミングヘッドセットで長い実績があるブランドというわけです。
📣お知らせ
— EPOS Gaming JAPAN🇯🇵 (@eposgamingJapan) March 4, 2020
私達は
”EPOS” (発音:イーポス)
という、
世界中のゲーマーとビジネスプロフェッショナル達の為の新しい音響のプレミアムブランドとして
生まれ変わります。https://t.co/tOYuQlNrxs pic.twitter.com/UgZRX6juif
なお裏事情に触れると、従来はDemant社とSennheiser Electronics社による合弁会社によって、15年以上もの間、共同開発していたようです。しかしこれをDemant社が引き継ぐことになり、当初はゼンハイザーからライセンスを借りるかたちで「EPOS I SENNHEISER」というブランドを設立しました。引き続きデンマークの本社オフィスを利用するようなので、おそらくスタッフもそのままでしょう。
そして現在はSENNHEISERという文字が消え、「EPOS」のみに。今でも公式サイトを探すとSennheiserの文字は残っていたりしますが、新製品のロゴにはEPOS単体のロゴが使われていっているようです。なお、ゼンハイザーブランド時代のモデル「GSP600」「GSP670」などは、いまだに現役だったりします。
そういったこともあり、EPOSのゲーミングヘッドセットは、他のブランドと違った魅力があります。やはり一流オーディオブランドの流れを汲んでいるだけあって、ハイレベルな音質や装着感の良さが特徴です。
ゲーミングらしくない、シックなデザイン
では本体を見ていきましょう。本体カラーはブラック(Sebring Black)の1色で、ブラックというよりは、やや青みがかっています。iPhoneやApple Watchにミッドナイトブルーという色がありますが、並べるとかなり近い印象です。
本体サイズも軽く、重さは308gです。ゲーミングヘッドセットは長時間装着しがちなので、これは嬉しいポイント。一般的に300台後半から400台が多いので、軽量の部類といえます。
H3PRO HybridはH3シリーズの最上位モデルで、外観はベースとなった有線モデル「H3」とかなり似通っています。これにBluetooth機能を追加した中間モデル「H3 Hybrid」も同様です。ただし、H3の本体色はノーマルなブラック/ホワイト、H3 HybridもH3同様のブラックカラーが採用されています。
このSebring Blackは、ブランド最上位の有線モデル「H6」にも採用されています。エントリーであるH3と同じカラーを採用せず、あえて上位モデルと同じカラーを採用していることからも、H3PRO Hybridが特別なモデルであることがわかります。
H3PRO HybridのベースモデルとなるH3は、シンプルな有線ヘッドセットです。それにBluetooth機能とUSBによる有線接続を追加したのがH3 Hybrid、さらにUSBドングルによる無線接続とANC機能を追加したのが、H3PRO Hybridというわけです。
なお値段も機能が増えるにつれて高くなっており、H3は13,800円、H3 Hybridは23,800円、H3PRO Hybridは37,800円となっています。とはいえ、H3 Hybridは遅延のあるBluetooth接続にしか対応しないので、実質的にはH3とH3PRO Hybridの2択でしょう。
また本機だけの特徴ではないですが、EPOS全体のラインナップとして、ゲーミングにありがちな発光機能は搭載していません。デザインもゲーミングらしさが控えめなモデルが多いなど、硬派な部分も個人的に好きなポイントです。
長時間使っても快適な装着感
ゼンハイザー時代からの特徴といえるのが、ハウジング(イヤーカップ)部分を固定する独特なヒンジ。一般的にヘッドホン/ヘッドセットは上下に動くだけのヒンジなのですが、EPOSの場合は、上下+斜め左右の2軸で動くことで、立体的に動きます。これによって、頭にしっかりとフィットしてくれるというわけです。
筆者はゲーミングヘッドセットとの相性がわるく、EPOS以外ではフィットしないモデルが多々あります。たとえばLogicoolやRazerといった有名ブランドでも、ハウジングの下部分が少し浮くなどして合わないのです。オーディオ用のヘッドホンではこのような経験がないので、ゲーミングヘッドセットの設計が特殊なのでしょうか。ともかく、フィット感に悩む人はいちどEPOSを試してみて欲しいと思います。
ヘッドバンドも装着感に重要な要素ですが、こちらも快適。布と合皮の2種類が使われており、頭に当たる部分が合皮素材です。非常に細かいポイントですが、頭頂部のみクッションが薄くなっていて、頭に当たる圧力の調整が図られています。筆者もヘッドホンを長時間使うと、頭頂部から痛くなってきますが、こういった部分も元オーディオメーカーならではの知見が活きているのでしょうか。
実際、4-5時間ほど連続で装着してみましたが、それでも痛くなりません。また、10段階のメモリも付いていて、頭の大きさにあわせた調整もしやすくなっています。
イヤーパッドは3つの素材で作られていて、外側が合皮、耳に当たる部分がスエード状の合皮、内側が布素材です。内部には低反発のメモリーフォームが入っていて、装着すると吸い付くようにフィットしてくれます。どうやらこのイヤーパッドは専用設計のようで、他のモデルとの互換性はありません。
プラスチックパーツをはめ込んで固定するタイプで互換性もないので、しばらくは壊れても大丈夫だとは思いますが、社外品の交換イヤーパッドは使えなさそうです。とはいえ装着感もよく、こういった部分も快適性に寄与しているのだと感じます。
装着性の部分でひとつ触れておきたいのが、ハウジング内側の空間が広めに作られているということです。装着時に耳があまり当たらないので、長時間使っていても痛くなりません。こういったゲーミングセットは珍しく、この点もEPOSのH3PRO Hybridを選んだ理由だったりもします。
もはや“全部入り”の接続多様性
多様な接続方法に対応することを冒頭で触れましたが、もう一度挙げておくと、本機はUSBドングルによる無線接続に加えて、アナログ有線接続、USBによる有線接続、Bluetooth接続が利用できます。
普通のワイヤレスヘッドセットだと、USBドングルによる無線接続のみが多く、一部にアナログ有線接続対応のモデルもあります。しかし、USB端子は充電用で接続には使えなかったりとか、Bluetoothについては搭載しないモデルがほとんどです。
正直なことを言うと、筆者的には無線接続だけでいいので、もう少し安くしてほしいという思いもあります。しかし近年はコンソール機やスマートフォンでゲームするユーザーも多く、またビデオ会議におけるヘッドセットの需要もあります。もしかすると、今後のトレンドとして、Bluetooth対応は当たり前になっていくのかもしれません。
また面白いのが、別の接続方法の音をミックスできるという仕様です。これは下位モデルのH3 Hybridも同様ですが、有線でPCと接続しながら、Bluetoothでスマホの音楽を聴くといった使い方も行えます。本機の場合は、USBドングルでPCと無線接続し、Bluetoothでスマホからの音楽再生も可能です。
たとえばNintendo Switchの場合、Discordで通話しながらゲームの音を聞くのは、通常であれば面倒です。しかしH3PRO Hybridであれば、スマートフォンやPCでDiscordを起動しながら、ゲーム音声を聞くのが1台で簡単に行えてしまいます。使い方次第で活用できるので、なかなかに夢が広がる機能です。
Bluetoothとのペアリングも簡単で、ハウジングの右側にあるボタンを3秒間押し、スマートフォンなどから接続するのみ。コーデックについては記載がありませんが、Androidの開発者オプションで確認したところ、SBCのみサポートしていることが確認できました。もちろん、Bluetooth接続で電話することも可能です。また遅延は150msくらいありそうなので、Bluetooth接続でゲームをやるのには向いていなさそうです。
このBluetoothボタンは、スマートボタンというらしく、Windows用ソフト「EPOS Gaming Suite」をインストールすればサウンド設定をすぐ切り替えることも可能です。ほか、反対のハウジングには、電源ボタンとステータスLED、ANCスイッチを備えています。また側面にはボリュームがついていて、回転させることで音量調整が行えます。
ただし、このEPOS Gaming Suiteというソフトには注意が必要です。筆者の場合はインストールしたところ、サイドトーンの音質が変わったり、勝手にオンオフされたりと、不安定な挙動になりました。また再生音質のバランスも悪くなってしまうので、インストールしない、もしくはアンインストールしたほうが良いかもしれません。なお音質については後述しますが、イコライザーで調整しなくても十分に良い音質なので、とくにソフトで調整しなくても大丈夫です。
バッテリーについては、ドングルによる無線接続時で最大30時間の利用が可能。ANCを使った場合には19時間になりますが、これでも通常のゲーミングヘッドセットと同じくらいの水準です。また、Bluetooth接続時は最大38時間、ANC使用時は22時間となります。
取外し可能なブームマイク
マイクについてはゲーミングヘッドらしいブームマイクなのですが、本機には取り外せるという面白い機能があります。マグネットで固定されているだけなので、簡単に着脱が可能。付属の円盤で固定部分を隠せば、まるでオーディオ用ヘッドホンのようになります。また、ブームマイクは跳ね上げることでミュートできます。
通話しないときにはマイクが地味にじゃまになるので、これだけ簡単に外せるなら便利かもしれません。またストリーマーなど、置きマイクを利用する場合は、本体のマイクは使わないと思います。そういった方にも便利な機能なのだと思います(とはいっても、個人的に外すことはなさそうですが)。
また、ブームマイクのほかに、ハウジング部分にもマイクを内蔵しています。ブームマイクに比べると周囲の音を拾ってしまいますが、ブームマイクを外した際でも通話が可能です。なお、公式サイトでは「デュアルマイク」と説明されていて、ブームマイクと内蔵マイクを組み合わせることで、ノイズキャンセリング性能を強化しているようです。
ヘッドセットに珍しいノイキャン、でもしっかり“実用レベル”
近年は完全ワイヤレスイヤホンを中心に、ANC(アクティブ・ノイズ・キャンセリング)が広まりをみせていますが、EPOSはそのANCをH3PRO Hybridに搭載してきました。ゲーミングヘッドセットのANC搭載は珍しく、他に対応モデルは思いつきません。
完全ワイヤレスイヤホンでは、AirPods ProやWF-1000M4が人気ですが、これらのように周囲の騒音を押さえてくれます。仕組みについては別記事で詳しく解説していますが、マイクで騒音を拾い、騒音と逆の波を生成して打ち消すという技術です。ハウジング内側にマイクのようなものがあるので、おそらくフィードバック方式でしょう。
先に言っておくと、本機のANC機能の聞きは弱めなので、過度に期待しないほうが良いと思います。実際に試した感想としても、エアコンの音は静かになりますが、キーボードやマウスは少し低音が減ったように感じるくらい。AirPods Proのような強力な効果ではありません。
一方で、ANCを使ったときに圧迫感を感じない、自然な感じ方なのは良いと思いました。少しはホワイトノイズもありますが、さほど大きくはありません。詳しくは音質のところで触れますが、ANCの音質への影響は少なめなので、これなら常にオンにしていても良さそうです。
ゼンハイザーのノイズキャンセリングは音質面を重視していて、完全ワイヤレスイヤホン「MOMENTUM True Wiress 2」など、あえて弱めの効果にとどめていたりします。EPOSからゼンハイザーはすでに離脱していますが、もしかすると同じような思想・ノウハウが残っているのかもしれません。
また公式では、ANCの効果は最大16dB(低音域)と説明しているように、低減されるのは低音域が中心です。逆に高音はイヤーパッドで遮音していて、こちらは30dBとのこと。ANCを使わなかったとしても、それなりの遮音性があります。
まさに高音質なゲーミングヘッドセット
最後に音質について触れていきましょう。今回はせっかくなので、まずは音楽や映像をテスト。その後、ゲームも試してみました。
音楽や映画用途でも使えるサウンド
サウンド傾向としてはフラットながらも、ゲーミングらしく中高音域にややブーストがかかったサウンド。中高音域の聞こえやすさ足音や銃声など、特にFPSのようなゲームをプレイする上では、勝敗を左右するほどに重要なポイントといえます。
そして驚いたのは、解像度の高さと定位の良さ。これもゲーミングでは重要なポイントで、細かい音の聞き分けたり、敵の来る方向を感じ取れたりというメリットがあります。
定位の良さは音楽再生でも有用で、たとえば、はっきりと楽器の方向がわかります。さらに映像用途でも、セリフが浮き上がったように聴こえるため、とても聞き取りやすいです。また解像度が高いと、細かい息遣いやニュアンス、ディテールなども感じられます。
音場も広めで、ボーカルは少し前のほうに定位します。ヘッドホンでも音場が狭めなモデルは多いですが、本機の場合は頭の中で鳴っているというよりは、それの少し外側といった感じです。
中高音域が少し持ち上げっているとはいえ、サ行の刺さりもなく自然です。また、低音域の表現力もなかなか。量としては少なめですが、不足していると感じることもなく豊かな表現。映画でも、爆発シーンも迫力たっぷりに再生してくれます。
各接続方法の違いも試してみたのですが、接続の方法で音質傾向が変わらないのはさすが。無線よりもUSBの有線接続のほうが僅かダイナミックレンジも広く繊細な表現に感じますが、誤差と言っていいレベルです。またBluetoothでは細部のディテールは落ちますが、それでも十分にいい音を楽しめます。
また、先ほどANC使用時の音質に触れましたが、こちらも音質傾向は変わりません。一般的なノイキャンヘッドホンでは、変わってしまうモデルも多いのですが、ゲーミングでここまで実現できているのは、やはり老舗オーディオメーカーの経験なのでしょうか。
もちろん、特に音楽ではボーカルのニュアンスが若干落ちるなど、音質面で全く影響がないというと嘘になりますが、こちらも誤差といっていいと思います。ANCで起こりがちなホワイトノイズについても、無音時以外は頑張っても聞き取れないレベルで小さく、全く気になりません。先ほどお伝えしたように、これなら常時オンで使っていてもいいと思います。
ゲームではとにかく“聞き取りやすい”
ゲームでは、長年プレイしているeSportsタイトル『Rainbow Six Siege』を中心に試してみました。
プレイを初めてまず気がつくのが、“音が聞き取りやすい”ということ。特に定位感がよいため、敵の方向がくっきりと見えるように感じられます。頑張って聞こうとしなくても、情報として自然に耳へ入ってくるのです。
音もクリアなので聞き取りやすいですし、勝敗には関係ない部分ですが、発砲時の重低音も感じられるため、ゲームプレイが楽しくなります。
さすがと思うのが、過度に強調されていない自然なサウンドなのに、足音や銃声、衣擦れの音などがはっきりと聞こえること。ゲーミングヘッドセットにはイコライザー機能があり、中域を持ち上げたりすれば聞き取りやすくはなりますが、その分不自然なサウンドになってしまいます。楽しめるような迫力感を残しつつ、聞き取りやすいので、絶妙なチューニングなのだと感じます。
この聞き取りやすさは他のゲームタイトルでも同じで、たとえば「Apex Legends」では、左右だけでなく背後から狙ってくる敵も感じられました。やはり音というのはゲームにおける武器のひとつで、これが把握できているのとないとでは、勝敗を左右してしまうのだと実感しました。
結論:やや高価だがオススメしたいゲーミングヘッドセット
これまでずっとEPOSのゲーミングヘッドセットが気になっていましたが、価格が高めなこともあり、手を出さずにいました。しかし、やはり購入して良かったと感じます。
特筆的なのは、音の良さと装着感の快適さ。もちろん機能性も魅力ですが、ゲーミングヘッドセットもオーディオ機器なわけで、基本的な部分が重要なのだと改めて実感しました。
特にサウンドについては、定位感がよく、ゲームでは敵の方向が聞き取りやすくなります。またバランスもフラットめなので、ゲームだけでなく音楽からYouTube、映画までマルチに使っていけそうです。
また、装着感の良さも気に入っているところです。遮音性を上げようとすると側圧を高くすることが多いのですが、本機の場合はそこまで強くなく、その代わりにしっかりと密着させることで遮音性を上げています。ヘッドバンドについては頭頂部が痛くならず、また耳もハウジングの内側に押しつけられないので痛くなりません。
EPOSの無線モデルとなると、本機のほかに「GSP370」「GSP670」がありますが、どちらも発売されたのが数年前と古くなっています。そんな中に登場した「H3PRO Hybrid」は、ゲームだけでなくマルチに使える、高い完成度のゲーミングヘッドセットだといえます。