イヤホンの「ノイズキャンセリング」を解説。おすすめモデルも紹介

近ごろ、ノイズキャンセリングを搭載するイヤホンが増えてきました。しかし一口に「ノイズキャンセリング」といっても、その方式にはいくつか種類があります。

そして種類によっては、「買って使ってみたら効果が弱かった」ということも。後悔のない選択ができるよう、しっかりと知っておきたいものです。

本稿では、そんなノイズキャンセリングについてまとめていこうと思います。おすすめの機種も紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。

アクティブノイズキャンセリング(ANC)って何?

ここ数年で「アクティブノイズキャンセリング」に対応する製品が増えてきました。

人気の「AirPods Pro」はその代表的なモデルです。AirPods Proの人気を皮切りに、各社がこぞって参入、一大ジャンルにまで成長しました。

(出典:アップル公式サイト)

実は、ノイズキャンセリングの技術自体は、10年以上前からあるものです。ブランドとしては、BOSE(ボーズ)、ソニー、パナソニックが展開していました。旅客機でも採用されていて、ビジネスクラスではレンタルも行われているなど、“快適な静寂空間”を追求できる技術です。

ノイズキャンセリングをオンにすると、旅客機であればゴーッという音が軽減され、静かな環境で音楽を楽しめます。うるさい環境では音量を上げがちですが、音量を上げなくても音楽が楽しめるようになり、難聴予防にもよいと言われていたりもします。

騒音を抑えるとなると、ノイズキャンセリング以外に、耳栓も浮かびます。しかし、耳栓とノイズキャンセリングでは、得意とする周波数に違いがあるなど、全くのメリット・デメリットがあるのです。

そもそもノイズキャンセリングとは

一般的なイヤホンのノイズキャンセリングは、大きく3つの意味で使われています。

それは、「パッシブノイズキャンセリング」「アクティブノイズキャンセリング」「通話ノイズキャンセリング」の3種類です。

では、各項目ごとに細かく見ていきましょう。

パッシブノイズキャンセリング

パッシブノイズキャンセリングは、いわゆる耳栓と同じで、遮音することによって、ノイズを抑える方法です。

これを活用しているイヤホンを挙げると、Shure「SE215」やEtymotic Research「ER-4SR」など。基本的には有線タイプのモデルがほとんどで、耳栓級の遮音性を持っていたりします。

遮音性というのは、後述するアクティブノイズキャンセリングでも、重要な要素の1つです。パッシブノイズキャンセリングによる遮音性を組み合わせることで、より高いノイズキャンセリングの効果が狙えます。

遮音性はイヤホン形状による影響が大きいですが、カナル型のイヤホンであれば、イヤーピースも重要です。COMPLY(コンプライ)のような、低反発のスポンジ素材でできたイヤーピースであれば、耳の形状に合わせてしっかりと密閉でき、より高い遮音性を狙えます。

アクティブノイズキャンセリング

パッシブとは異なり、電気的な仕組みでノイズを削減する方法が、アクティブノイズキャンセリングです。

仕組み的には、ノイズと対になる、逆位相の音をイヤホンのスピーカーから再生することで、ノイズを消滅させてしまいます。

アクティブノイズキャンセリングを備えるイヤホンには、マイクを搭載していて、マイクから騒音を拾い上げます。このマイクで捉えた音を処理することで、逆位相の音を生み出しています。

なお逆位相を生み出す処理は、コンピューターで計算するデジタル方式と、回路で実現するアナログ方式があります。このどちらかを選択するか、そしてどのように逆位相を発生させるかというチューニングも、各メーカーの腕の見せどころです。そのためボーズやソニーなど、実績のあるメーカーのほうが、強力なノイキャンを備えるモデルが多いです。

(出典:ソニー 公式サイト )

アクティブノイズキャンセリングのメリットは、遮音性が高くないイヤホンであっても、ノイズを抑えられる点です。

パッシブのように遮音性を上げる場合、カナル型イヤホンだと耳に強くねじ込む必要がありますし、ヘッドホンでは、イヤーパッドを左右から強く押さえつける必要があります。つまり、長時間の使用は厳しくなります。その点、アクティブノイズキャンセリングでは、軽い装着感でもノイズを抑えられます。

また、アクティブノイズキャンセリングは低域のノイズを抑えるのに向いています。電車や旅客機など、不愉快なゴーッというノイズは低音が多いです。そして低音は、遮音性が高いイヤホンではあっても、体を伝わって聞こえてしまうので、こういったノイズは、アクティブノイズキャンセリングに強みがあります。

一方で、人の話し声やアナウンスなどの中高域は、高速な処理が要求されるため、アクティブノイズキャンセリングでは苦手です。中高域については、パッシブノイズキャンセリングのほうが向いているので、アクティブノイズキャンセリングを搭載したうえで、遮音性を高めたモデルも多いです。

なお、アクティブノイズキャンセリングのデメリットとしては、サーッというホワイトノイズが聞こえてしまうこと、そして、耳が詰まったような圧迫感を感じることです。こういった不自然さは、キャンセリングの強さとトレードオフの点もありますが、技術の進歩で改善されつつあります。

通話ノイズキャンセリング

気をつけてほしいのが、「ノイズキャンセリング」と書いてあるイヤホンであっても、対応していないモデルがあるということです。

とくに安物のイヤホンで多く、通話のノイズキャンセリングを指している場合があります。これはノイズキャンセリングといっても、通話時に自分の声をクリアに伝えるためのものです。

代表的な技術では、Qualcomm社の「cVc」が挙げられます。昨今ではビデオ会議も増えているので、そういった場合は、注目ポイントの1つかもしれません。

アクティブノイズキャンセリングは3種類

アクティブノイズキャンセリングについて、さらに掘り下げて考えていきましょう。

先ほど、アクティブノイズキャンセリングは「マイクでノイズを拾って処理する」と説明しましたが、実は、そのマイクの配置方法でもキャンセリングの効果が変わってきます。

基本的に、マイクを設置する場所は、イヤホンの外側と内側(内部)の2ヶ所です。外側に設置する場合を「フィードフォワード方式」、内側の場合を「フィードバック方式」、外側と内側の両方を組み合わせたものを「ハイブリッド方式」といわれます。

フィードフォワード方式

フィードフォワードは、イヤホンやヘッドホンのハウジング外側にマイクを設置する方式です。

アクティブノイズキャンセリングのなかでは一番低コストのため、安めの価格帯でよく採用されています。

デメリットとしては、マイクで捉えるノイズと、鼓膜に届くノイズが異なってしまうため、効果が弱めの傾向です。特に遮音性が低いモデルの場合、せっかく削減したノイズが聞こえてしまいます。

一方、耳への違和感が少なめというメリットがあります。自然なアクティブノイズキャンセリングを実現できるので、違和感が気になる方や、安いので試してみたい方に最適。音質への影響も少ないので、音にこだわる高級モデルでも採用されていたりもします。

フィードフォワード方式の注目モデル

フィードフォワード方式でおすすめのモデルは、完全ワイヤレスイヤホンの人気メーカーAVIOTの「TE-D01m」です。独自技術のマイルドANCを採用しています。価格が12,500円(税抜)と、手に取りやすいこともポイント。ケースも小さく、バッテリーは10時間もつなど、使い勝手の良いモデルだと思います。

また、Jabra「Elite 75t」もおすすめです。当初はノイズキャンセリング非対応のモデルとして登場しましたが、アップデートでアクティブノイズキャンセリングに対応しました。もともと完成度が高いモデルでしたが、アップデートでさらに魅力に磨きがかかりました。また、業務用ヘッドセットを手掛けるメーカーということもあり、通話性能も優秀。テレワークやビデオ会議などで役立ってくれそうです。

マイク性能が優秀なモデルといえば、オーディオテクニカ「ATH-CKR70TW」というモデルも注目です。価格は約2万円と少し高めですが、音声を拾いやすいデザインを採用するなど、通話性能を追求しています。また高級イヤホンやヘッドホンをラインナップするメーカーということもあり、その音質にも注目です。

先ほど軽く触れましたが、「音質への影響が少ないから」という理由でフィードフォワード方式を採用するのが、ゼンハイザー「MOMENTUM True Wireless 2」。3万円オーバーの高級モデルで、特にオーディオ好きからの評判が高いモデルです。ノイズキャンセリングの効きは弱めですが、不快な低音はしっかりとカットしてくれますし、オンにしていることに気が付かないほどの自然な効き方でオススメです。とはいえノイズキャンセリングをオフにすると、周囲のうるささに驚くレベルで、しっかりと効いてくれます。

フィードバック方式

フィードバックは、イヤホンやヘッドホンの内部にマイクを配置する方式です。音を出すドライバーや振動板の近くに設置されているので、外からはマイクが見えません。

フィードフォワードに比べ、マイクを設置しにくい場所なのでややコストはあがりますが、耳に聞こえるのと同じ音をマイクで拾うため、より高いキャンセリング効果が得られます。また、フィードフォワード方式では強風に弱いのですが、そういった心配がないのもメリットです。

とはいえ、フィードバック方式を採用するモデルは、かなり希少。どちらかというと、後述するハイブリッド方式が主流です。フィードフォワード方式が低コストであることもあり、両方を組み合わせるハイブリッド方式が選ばれるのかもしれません。

英国のブランドRHAのモデル「RHA TrueControl ANC」はフィードバックを採用するモデルです。音質に定評があるブランドなので、高音質が欲しい方にはチェックしてほしいモデルです。

ハイブリッド方式

フィードフォワードとフィードバックを組み合わせたものがハイブリッド方式です。メーカーによって呼び方が様々で、Ankerの「ウルトラノイズキャンセリング」など、独自の名称を付けている場合も多いです。

(出典:サンバレージャパン 公式サイト )

ハイブリッド方式では、フィードフォワードで減らしたノイズを、フィードバックで再度キャンセリングすることで、より高い効果を得られます。アクティブノイズキャンセリングでは、一番効果の高い方式です。

マイクを2つ搭載するうえに処理が複雑になるので、コストが高い傾向にあります。そのため、完全ワイヤレスイヤホンでは2万円オーバーがほとんどですが、ノイズキャンセリング効果は一級品です。

人気のAirPods Proもこの方式です。メーカーによって効果は様々ですが、基本的にこの方式のモデルを選んでおけば、かなりのノイズ削減効果が期待できるはずです。

ハイブリッド方式の注目モデル

ここでは、AirPods Pro以外のおすすめモデルをご紹介しましょう。

まず定番の人気モデルが、ソニー「WF-1000XM4」です。ノイキャン効果としてはAirPods Proと同程度を確保していて、さらに音質はソニーだけあって優秀。ストリーミング音楽の音質を向上させるDSEE Extremeを使用することで、より広がりのある音が楽しめます。不満点が見つからないほどの優秀さで、迷ったらぜひ選んでほしいモデルです。

ハイブリッド方式はほとんどが2万円以上の高級モデルですが、中には1万円を切るものもあったりします。それが、Anker「Soundcore Life A2 NC」です。消音効果はAirPods Proなどの高級モデルには一歩及ばずですが、価格を考えるとかなり優秀な“使えるノイキャン”です。音質はドンシャリ傾向なので楽しく聴ける、コスパの高い1台です。

ヘッドホンでは、ソニーの「WH-1000XM4」が定番といえます。人気シリーズの4代目として、モデルチェンジごとに性能を強化。AirPods ProやWF-1000XM4を上回る、強力なノイキャン性能を実現しているので、移動が多い方に最適です。ヘッドホンは振動板が大きいので、低音再生能力や音の表現力も高く、イヤホンよりも高品質な音楽体験が可能。バッテリーも30時間と長時間なので、国際線での移動にも活躍します(ノイキャン完全ワイヤレスイヤホンは、イヤホン単体で3-6時間ほど)。

そのほか、音質を追求する方には、高級オーディオブランドTechnicsの「EAH-AZ70W」もおすすめ。また、ノイズキャンセリングの強力さを求めるなら、一番強く効くといえるのがBOSEの完全ワイヤレスイヤホン「QuietComfort Earbuds」。ケースが大きいのはデメリットですが、完全ワイヤレスイヤホンで静寂性を求めるなら、最もおすすめしたいモデルです。