Bluetoothイヤホンの「コーデック」って何?種類と違いを解説

完全ワイヤレスイヤホンをはじめとした、Bluetoothイヤホン・ヘッドホンが人気です。

製品を選ぶ要素はいくつかありますが、音質にかかわる重要な項目が「コーデック」。これによって音質の上限が変わってしまうため、高音質を求めるユーザーにとっては、必須のチェックポイントといえます。

コーデックとは、音声圧縮方式のこと。BluetoothではWi-Fiと比べて送れるデータ量が少ないため、音声を再生するためには、データを圧縮してから送る必要があります。音楽ファイルではMP3やWAVといった形式、画像ファイルではJPEGやPNG、GIFなどがありますが、こういったものもコーデックです。

Bluetoohにおけるオーディオ用のコーデックは、SBC、AAC、aptXなど、多くの種類があります。では、これらコーデックの違いはどういったものでしょうか。それぞれの種類と特徴について、順番に説明していきます。

すべてのデバイスが対応する「SBC」

まずBluetoothの音声コーデックで基本となるのが、「SBC」(Sub Band Codec)です。これはすべてのBluetoothイヤホン・ヘッドホンが必ず搭載しています。

後述していくコーデックと比べると音が悪いといわれることが多いのですが、実は結構優秀なコーデックです。規格的には328kbpsというビットレートに対応していて、MP3と同じくらいの音質に対応しています。余談ですが、ビットレートとは、一秒間に送受信できるデータ量のこと。大きければ高音質くらいのイメージで大丈夫です。

なぜ音質が悪いと言われてきたかというと、SBCが可変ビットレートのコーデックだからです。通信環境が悪い場合はbitPoolという数値を調整することで、音質を落として接続を安定させる仕組みです。

調べたところ、初期のBluetoothイヤホン・ヘッドホンでは、Bluetooth SoC(Bluetoothコントローラー)の性能が低いことで、最大ビットレートを出せないモデルが多く、この頃のイメージが現在まで続いてしまっているようです。実際、現在はSBCでも音質の良いモデルは多いです。

さらに掘り下げてみると、SBC搭載のイヤホンは、Bitpool値がざっくり32と53のふたつに分かれます。ビットレートでいうと、32が192kbps、53で328kbpsです。この数値はメーカーの仕様表には乗っておらず、解析しないとわかりません(近年では53のモデルが増えているようですが、あらかじめスペックに記載してほしいものです)。

遅延については、200ms(=0.2秒)前後と、動画では口の動きと音声が少しずれてしまうレベルです。しかし、モデルによってはバッファーサイズの調整などを行うことで、これより遅延を短縮したモデルも多く思います。

また、遅延を60msほどまで抑える「ゲーミングモード」を搭載するモデルも増えてきています。このレベルであれば、音楽ゲームは厳しいですが、動画ではリップシンクを気にせず楽しめます。

iPhoneなどが対応する「AAC」

「AAC」(Advanced Audio Coding)というコーデックも、主にSBCと合わせて搭載されることの多い規格です。Appleが独自開発した技術ということもあり、送信機としてはiPhoneなどのiOS端末やMacが対応しています。最近のAndroid端末ではサポートしているモデルも多いですが、現状Windowsは対応していません。

特徴としては、SBCよりも高音質であるとよく言われています。数値的にもビットレートは256kbpsなので、一般的なbitPool値32のSBC(192kbps)と比べると高音質といえます。

遅延については非公開ですが、800ms前後とも、120ms前後ともいわれます。数字にかなり開きがありますが、実際の体感としては、SBCと同じ程度の感覚です。なお、SBCと同様に「ゲーミングモード」を搭載したモデルがあり、60ms前後に短縮できるようなので、検討する価値はあります。

また、定額音楽サービス「Apple Music」でロスレス・ハイレゾ配信が始まりましたが、上述の通りAACは256kbpsで、ハイレゾには対応していません。つまり、AirPodsシリーズで音楽を楽しむ場合、ハイレゾであっても、従来の圧縮音源と同程度のビットレートで再生されてしまいます。

Qualcommが開発した「aptX」

aptXは、アメリカの通信・半導体企業であるQualcomm(クアルコム)が開発したコーデックです。

aptXには4つの種類があり、通常のaptXに加えて、低遅延のaptX Low Latency(aptX LL)、ハイレゾに対応するaptX HD、自動調整で高音質と低遅延を両立させたaptX Adaptiveがラインナップされています。

すべての種類をサポートするモデルはなく、aptXのみ、aptX/aptX HDの2種類、aptX/aptX HD/aptX LLの3種類、aptX Adaptiveのみといった製品が多いです。

ちなみに、Bluetoothイヤホンには、主要なプロセッサーなどをまとめたSoCを搭載していますが、これもQualcomm製のものが多く使われています。型番でいうと「QCC○○○○」というもので、低消費電力・高接続安定のチップとして、搭載することを製品アピールにしているくらいです。また、AndroidスマホのSoCとして広く搭載している「Snapdragon」もQualcommの製品です。

また、BluetoothイヤホンのSoCの市場シェアとしてはQualcommが強いですが、RealTek、Broadcom、Airohaといったメーカーのチップもよく採用されています。

CD音質の「aptX」

通常のaptX(aptX Classicともいわれる)は、CD品質(44.1kHz/16bit)までの伝送に対応するコーデック。ビットレートとしては384kbps、遅延としては70ms前後です。

少し前までは、「音質・低遅延を求めるならaptX対応モデルを買おう」というのがマニアの間でいわれていたことで、SBC・AACの上位互換という認識でした。しかし、近年はこれに疑問をもつユーザーが増えてきています。

上述したように、aptXの384kbpsというビットレートは、SBCの最高値である328kbpsと大きく差がありません。また遅延についても、SBS・AACともに、デバイス側の工夫で短くしているモデルも多く、aptXがさほど有利にならないという理由があります。

このことを示すように、近年では高級モデルであっても、aptXを搭載しないモデルが増えてきました。完全ワイヤレスイヤホンでは、ソニー「WF-1000XM4」をはじめ、ボーズ「QC Earbuds」、Jabra「Elite 85t」といった人気モデルまで、aptXに対応していません。

また、このコーデックをイヤホン・ヘッドホン搭載するには、ライセンス料が必要なため、特に安いイヤホン・ヘッドホンは対応していません。一方で、送信機側にはライセンス料が不要なため、WindowsやMacをはじめとして広く搭載されていますが、iOS/iPadOS端末は対応していないので注意が必要です。

ハイレゾ対応の「aptX HD」

aptX HDは、最大48kHz/24bitのハイレゾに対応するコーデックです。aptXをベースにハイレゾに対応させたという規格で、ビットレートは576kbps、遅延は130ms前後となっています。

aptXと比べるとややスペック上の遅延は大きいですが、体感的にはわからない程度。それ以上に、ハイレゾ対応による音質の良さが特徴です。

ただハイレゾといっても、後述するLDACの最大96kHz/24bitと比べると劣ります。音質重視ではLDACのほうがいいということもあるためか、対応機種があまり多くないのもデメリットです。

低遅延の「aptX LL」

aptX Low Latency(aptX LL)は、ゲームにも使えるレベルの低遅延を実現したコーデックです。

ビットレートこそaptXと同じレベルの352kbpsですが、遅延は40ms以下。これは人間には体感できないレベルで、個人的な感覚だと、音楽ゲームも楽しめるほどです。

筆者的には広まって欲しいコーデックなのですが、対応機種がかなり少ないのが困るところ。完全ワイヤレスイヤホンでは対応するモデルがほとんどなく、ネックバンド型のBluetoothイヤホンとBluetoothヘッドホンに少し存在する程度です。

また、送信デバイス側も対応する端末が少なく、クリエイティブ「BT-W3」やラディウス「RK-BT100A」のようなBluetoothトランスミッターを使う必要があります。このコーデックが一般的になってくれれば、Nintendo SwitchやPS4なども気軽にワイヤレスで楽しめるのですが…。

そのため、動画の遅延を抑えたいくらいであれば、汎用性の高いSBC/AACで低遅延を実現した「ゲームモード」搭載のモデルを選ぶのも一つの選択肢です。

高音質と低遅延を両立した「aptX Adaptive」

aptX Adaptiveは、aptXシリーズで一番新しい規格で、これから対応機種が増えていく段階のコーデックです。特に完全ワイヤレスイヤホンでは、対応する新機種が2021年夏までにいくつか出てきました。スマホなど送信デバイス側の対応もまだまだですが、今後に期待がもてます。

Adaptiveという名前の通り、ビットレートを480~279kbpsの間でコントロールできることが大きな特徴です。これに加えて、圧縮率の効率化を達成することで、同じビットレートでも、より高音質再生ができるようになっています(3割ほど削減することで、480kbpsでもaptX HD相当の再生が行えるとのこと)。

これによるメリットは、通信状況に応じてビットレートを落とすことで、音切れを防止できる点です。逆に通信環境がいい場所では音質を上げてくれるなど、特に何も設定しなくとも、最適に調整してくれるわけです。冒頭にご紹介したSBCと同じような考え方ですが、こちらはハイレゾ相当まで再生できる点が異なります。

また、aptX LLモードを搭載することで、自動的に低遅延設定に切り替えることも可能です。遅延は50~70ms程度とのことで、先述のaptX LLよりは遅延が大きく、音楽ゲームでは厳しい数字ですが、動画を楽しむくらいであれば気にならないと思います。

期待の次世代コーデック「LC3」

aptX Adaptiveと同じく、今後に期待できるコーデックが「Bluetooth LE Audio」でサポートする「LC3」というコーデックです。製品としてはまだ世に出ておらず、2022年の頭くらいに最初のモデルが出てくる予定です。

現時点で詳細はまだ不明ですが、Bluetooth側で開発された規格として、長らく放置状態だったSBCから置き換わる可能性のあるコーデックとして期待されています。

新しいコーデックということもあり、音声の圧縮効率が上がっており、公式情報によると、半分のビットレートでもSBCより音質が良いようです。

また、スペック的には最大48kHz/24bitまでのハイレゾも扱えるとのこと。ほかにもLC3は、低遅延、低消費電力、高い接続安定性が特徴のようです。

ハイレゾ対応、音質に特化した「LDAC」

LDACは、ハイレゾ対応の規格としてソニーが開発した、現時点でもっとも音質のよいコーデックです。aptXとは違い、ライセンス料が不要なオープンソースです。Windows/iOS/Macは対応していないですが、Android端末では、ほとんどのモデルで利用可能です。

ビットレート的には最大990kbpsで、最高96kHz/24bitの伝送が可能。遅延は1,000ms前後とかなり大きめですが、音楽再生時に遅延が関係ないこともあり、あまりデメリットに挙げられないほとがほとんどです。

個人的な感想としても、他のコーデックと比べると圧倒的に音質が違います。Bluetooth特有の圧縮されている印象が薄く、率直に「有線とあまり変わらないのでは」と感じるレベル。音質を求めるのであれば、LDAC対応のモデルを選べば満足できるでしょう。

LDACは多くのデータを送受信する都合上、電池消費が大きく、対応する完全ワイヤレスイヤホンは存在しませんでした。しかし技術向上によるものか、Anker「Soundcore Liberty Pro+」を世界初として、続いて人気モデルのソニー「WF-1000XM4」も対応モデルとして登場しました。

スマホメーカー独自の「HWA」「Scalable Codec」

対応モデルはかなり限られていますが、スマートフォンメーカーが独自に開発したコーデックも存在します。それが、ファーウェイが開発したHWAと、サムスンが開発したScalable Codecです。

ファーウェイ開発のHWA

HWAは、96kHz/24bitをサポートするハイレゾ対応のコーデックですが、対応イヤホンなどは特になし。ファーウェイのスマホや、一部の中華系メーカーのDAPが対応していますが、あまり使う機会の多くないコーデックです。

サムスン開発のScalable Codec

続いてScalable Codecは、サムスン製のスマートフォン(Galaxy)と、同社製のワイヤレスイヤホンのみが採用するコーデックです。ビットレートは88~512kbpsまでの可変で、周辺の環境に合わせて調整してくれます。また、もとの音質に近づけるという補完技術「UHQオーディオ」によって、96kHz/24bit相当のハイレゾ再生に対応することも特徴です。

特に最近は、Galaxyのスマートフォンを購入すると、同社の完全ワイヤレスイヤホン(Galaxy Budsシリーズ)をプレゼンをするキャンペーンを頻繁に行っています。この組み合わせの場合、SBCやAACを選ぶのではなく、Scalable Codecを選んだほうが高音質に楽しめるはずです。

基本的にはSBCとAACだけでも十分

コーデックはいくつもの種類があってわかりにくいですが、近年では全体的にクオリティが上がったこともあり、基本的にはSBC、iPhoneユーザーであればAACに対応していれば十分です。

これをベースに、高音質を求めるなら、LDAC/aptX HD/aptX Adaptiveに対応しているモデル、低遅延を求めるなら、aptX LL/aptX Adaptiveに対応しているモデルを選びましょう。

ひとつ注意したいのが、イヤホンが対応していても、スマートフォンなどの送信デバイスが対応していないとコーデックは使えません。特にaptX系統に対応しているモデルは限られてくるため、事前のチェックも重要です。

また別記事にて、デバイス側の対応コーデックをまとめています。Bluetooth対応のイヤホンやヘッドホンを購入する際は、ぜひ合わせて参考にしてみてください。