iFi audio「GO bar」レビュー。親指サイズなのに高音質なドングル型DAC

イギリスのオーディオブランド、iFi audioからドングルタイプのUSB-DAC「GO bar」が登場しました。iFi audioといえば、ヘッドホンアンプを中心に展開している人気のブランドです。

ドングル型DACは今や多くのメーカーからラインナップされつつありますが、この人気ブランドが参入するということで、一部では大きな話題になりました。早速使ってみましたので、簡単にインプレッションを書いていきます。

先にまとめておくと、ドングル型DACとしては約5万円と高価なモデルですが、その価値はあると感じます。音質を求めると機材は大きくなりがちです。本機は親指くらいのサイズにもかかわらず、DAPに匹敵するような音質を気軽に持ち運べるというのは、何よりのメリットです。

iFi audio初のドングル型DAC

ドングル型DACは、まさに今人気のジャンルです。大きさが小さいため、スマートフォンと接続して手軽に使えますし、PCに接続すれば気軽にグレードアップした音質を楽しめます。一方で、ジャンルとしてこれといった呼び方はなく、スティック型DACやDACアンプ、たんにUSB-DACと呼ばれることも。

過去を振り返ってみると、当初はAndroidやiPhoneから3.5mmミニジャックがなくなり、その変換アダプターとして投入されたモデルがほぼ全てだったように思います。そんななか2019年にiBasso Audioから登場した、音質重視のモデル「DC01」は大ヒットを記録し、一躍話題になりました。

近ごろではモデル数も増え、かなり選択肢が広がっています。中国のブランドが強く、iBasso AudioやShanling、Hiby、Cayin、水月雨など、1万円弱~3万円くらいがボリュームゾーンでしょうか。

Lotoo「PAW S2」やLUXURY&PRECISION「W2」のように5万円に迫るモデルも販売されていますが、全体としては上記のように3万円くらいまでが多く、“高くても高音質”というモデルはそこまで多くありません。今回のGO barは、まさにそんな音質を求めるユーザーにとって、期待の新製品というわけです。

GO barはiFi audioとして初のドングル型DACですが、筆者としては「ついに出してくれたか」という気持ちです。同社はこれまで多くのヘッドホンアンプ/USB-DACを投入していますが、いずれも評判が高く、コストパフォーマンスの面からも優れている製品ばかり。そんなiFi audioが音質志向のドングル型DACを出すとなれば、注目せざるを得ないでしょう。

なお、iFi audioは2012年設立の比較的新しいブランドですが、その背後にはAMRという、50万円を超えるようなプリメインアンプを作っているような高級オーディオブランドがあります。もちろん、そのノウハウはiFi audioにも生かされているようです。

これまでiFi audioは、「ZEN DAC」や「micro iDSD」のような小型の据え置きモデル、「hip-dac2」や「xDSD Gryphon」のようなポータブルヘッドホンアンプがラインナップの中心でした。一方で今回のGO barは、スマホとの組み合わせを想定した「GOシリーズ」の新製品で、シリーズとしてはBluetoothレシーバー「GO Blu」に続く第2弾のモデルです。

小型だけど高機能、まさに“全部入り”

GO barで注目したいのは、大きさ65×22×13.2mm/重さ28.5gというサイズにもかかわらず、非常に高機能ということです。また本体もアルミ製で堅牢感と高級感を感じます。

対応フォーマットとしては、384kHzまでのPCM、12.3MHzまでのDSD、384kHzまでのDXD、MQAフルデコード。本体には9個のLEDが搭載されていて、ここに接続中のフォーマットが表示されます。印字の文字がやや見づらかったりもしますが、使っていくとだいたい位置を覚えてしまうと思いますので、むしろ文字の主張が少なくて良いかもしれません。

このサイズにもかかわらず、iFi audioお得意のエフェクト「XSpace」「XBass+」も備えています。前者は音に広がりを持たせるもの、後者は低音に厚みを持たせるようなもので、重ねがけも可能です。他のモデルと同じくデジタル処理ではなく、回路によるアナログ処理を行っているとのこと。

ほかにも、出力ゲインを高めて鳴らしづらいヘッドホンを駆動する「Turbo」モードや、4種類のデジタルフィルターの切り替えにも対応します。デジタルフィルターの種類はノーマルのほか、フィルターなしのビットパーフェクト(BP)、スローロールオフのミニマムフェーズ(MIN)、352/384kHzにアップサンプリングするギブス・トランジェント・オプティマイズド(GTO)です。

個人的に嬉しいのは、iFi audioのユーザーはおなじみの「iEMatch」を搭載していること。いわゆるアッテネーター(抵抗器)で、音量を小さくしたり、ホワイトノイズを低減したりできる機能です。手持ちのイヤホンでは、通常のモードでもホワイトノイズが出るものもありましたが、この機能をオンにすればホワイトノイズも気にならないレベルまで小さくなりました。

また高感度のイヤホンでは、音量最低にしてもまだ大きいということがありますが、そういったとき音量を下げるためにも役立ちます。なお、4.4と3.5の2つが選べますが、3.5mm接続時はどちらも同じ効果、4.4mm接続時は3.5と4.4で音量が異なっていて(4.4のほうが音量が小さい)、どのような仕組みになっているのか少し謎です。

また、音量はiEMatchスイッチの右にあるボタンから上下できます。デジタルボリュームなので最低音量でもギャングエラーがなく、感度の高いイヤホンでも安心。ボリュームボタンを押すとLEDの表示が3秒くらいだけ、サンプリングレート表示からボリューム表示に切り替わって、現在のボリュームがなんとなく判別できます。またボリュームボタンではなく、スマートフォンと音量を同期させる設定も搭載します。

順番が前後してしまいましたが、接続端子については、3.5mmのシングルエンドと4.4mmのバランスに対応しています。出力アンプ段は左右対称のデュアルモノ構成かつトゥルーバランス回路設計とのこと。

バランス端子といえば2.5mmもありますが、最近は4.4mmが主流になりつつあるようで、あまり2.5mmは見かけなくなってきました。安いイヤホンはリケーブルできず3.5mmで使うしかなかったりするため、両方使えるのは頼もしいです。

付属品についても触れておきましょう。本体のほかには、2種類のケーブルが同梱されています。AndroidやPC、Mac、最近のiPadなどに接続できるUSB-C to USB-Cケーブルと、iPhoneやiPadに接続できるUSB-C to Lightningケーブルです。USB-C to USB-Aの変換アダプターも用意されているため、USB-Cを搭載しないPCでも利用可能です。

ケーブルの長さ(コネクタの根本から根本まで)は約8.5cm。太くてしっかりとしており、オーディオ用途でも問題なさそうな印象を受けます。USBケーブルのグレードは音質に影響を与える部分ですので、付属品だからとコストカットされていないのはありがたいところです。

またケーブルに加えてレザーケースも付属します。本体とケーブル1本が収まる大きさで、フタはマグネットで固定するため高級感があります。

ただ、いちいちケーブルを取り外して収納しなければならないため、こまめに使う場合は面倒な気がします。しっかりしている分やや大きいこともあり、筆者としてはこのケースを使わず、使っていないイヤホンポーチにでも入れて使う予定です。

ソリッドで高解像度なサウンド

上述の通り、GOシリーズはスマートフォンとの組み合わせを念頭にしているのですが、筆者の場合は自宅でWindows PCと組み合わせて使っています。

やはり音質的には据え置きのシステムのほうが有利ですが、狭い机では邪魔になることから、コンパクトでも音質がよい製品を探していました。そんな折に目にしたのが、今回の製品が発売されるという情報です。

届いてから音楽に動画にと活用していますが、iFi audioらしく、かっちりとしていて高解像度なサウンド。全帯域をバランスよく再生するため、長時間使っていても聞き疲れしにくいのもポイントです。

ボーカルの声をクリアに再生するので、ヨルシカのような女性ボーカル曲も非常に気持ちよく聴けます。また星野源の楽曲のように、打ち込みの多種類の音源が飛び交うような楽曲でも、個々の音をまとまらずに描き出してくれます。

音場はやや狭めなのは残念ですが、一方でボーカルの声が近くなるので好みの部分でしょうか。サウンド傾向も相まって分析的に聞けるので、個人的にはそれほど気になりません。

試しに手持ちのDAP、ソニー「ZX300」と比べてみました。ZX300と比べるとGO barは線が太くやや力強いサウンドですが、これは好みの問題でしょう。音場についてはZX300の方が広いものの、解像度ではGO barが明らかに上回っています。

主にイヤホンを使うことがメインですが、ER-4Sのようにパワーが必要なものでも、駆動力が足りないように感じません。またヘッドホンも再生してみましたが、音が痩せるようなことはなく十分にドライブしてくれる印象です。

なおパワーがある一方で、しばらく使っていると本体が発熱してきます。また曲の再生を始める際には「プツッ」というポップノイズがすることがあり、このあたりが改善してくれたらもっといいのになとは感じます(ポップノイズはiEMatchを使うと軽減されますが)。

使い勝手の部分でも、最低音量が小さく、かつ細かく調整できるのも魅力的。ヘッドホンアンプは出力が大きいものが多く、イヤホンでは使いづらかったりしますが、本機ではそのようなことがありません。そういった面からも、PCで気軽にイヤホンを使いたいという用途には最適だと感じます。

余談ですが、筆者は過去に「micro iDSD」の初代モデルを使っていたことがあります。そもそもの音量が大きいのですが、最低音量ではギャングエラー(左右の音量が揃わないこと)が発生し、ソフト側でボリュームを下げるなど苦労しました(そしてたまに音量設定が戻り、音量が大きくなって驚く)。なお、GO barは先に述べたように電子ボリュームのため、ギャングエラーも発生しません。

このようにGO barは小さいながらも音がよく、さすがiFi audioといいった製品です。価格は49,500円(税込)と、ドングル型DACとしてはトップクラスに高価ですが、個人的にはその価値はあるように思いました。